研究助成プログラム

助成研究者インタビュー

発達障害のある子どもたちへの交通安全の推進

タカタ財団・2017年度研究助成の対象テーマ
「発達障害のある子どもたちへの合理的配慮を伴う教育プログラムの開発」
この研究の概容について、村上佳司氏に語っていただきました。

村上佳司

発達障害の特性を念頭に置いた交通安全教育の研究および推進は喫緊の課題

―先ず、発達障害のある子どもたちに関する研究に取り組まれるようになったきっかけからお教えください。

 2011年(平成23年)3月11日に東北地方太平洋沖で発生した「東日本大震災」時に、周囲から目に留まる障害者の方とそうでない障害者の方がおられ、目に留まる障害者、例えば車椅子の方などは、明らかに人の手が必要だとすぐに気が付き、周りから助ける声があがり、命を守られた方がおられましたが、一方で発達障害のある子どもなど目に留まりにくい障害者の方が、震災に巻き込まれたとされています。

 その後も仮設住宅とか体育館での共同生活を営んでいる中で、車椅子生活の方に対しては、手を差し伸べられますが、発達障害のある子どもは、奇声を上げたり、動かなかったりと、周りの方に受け入れてもらえない場合があったと聞いています。周りの方にそのような子どもの特性を知ってもらわないと受け入れてもらうことが難しいと感じ、そこで、震災をきっかけに発達障害のある子どもに関する研究を行いました。

―これまで、主にどのような研究を行ってこられましたか。

 発達障害のある子どもへの防災教材の開発と指導法について研究を行ってきました。それと並行して、文部科学省の実践的安全教育総合支援事業に基づいた通学路安全推進事業が展開されています。静岡県がその事業を展開する中で、通学路安全推進アドバイザーとして2014年より活動してしています。

 そのころより共同研究者である小川和久・東北工業大学教授のアドバイスをいただき、通学路の点検を踏まえた交通安全についての研究を進めています。そこで、今まで行ってきた研究と通学路の交通安全をリンクさせ、教育現場等に還元できることはないのかと考え、発達障害のある子どもに関する交通安全の研究を進めることにしました。

―発達障害のある子どもたちへの難しい教育に取り組んでおられるのですね。

 障害には、一人ひとりが、それぞれ特徴があるので、一律に指導することは難しいところがあります。このことから、まずは発達障害に焦点を絞り、現場で対応できるようになればと考え取り組んでいます。

 現在、小学校、中学校の現場では、過去の10年、20年前に比べると発達障害の子どもがすごく多くなって来ています。医師に発達障害と認定されれば、薬を飲んで症状を抑えることができますが、保護者の中には、自分の子どもに症状が現れていても医師の診断を受けない場合があります。いわゆる「グレーの子」と言われており、近年、そのような子どもが増え、一般の学級の中で授業を受けているケースが非常に増えています。

 教育現場ではインクルーシブ教育の推進がなされています。一方で学校の先生の多忙化が言われています。多忙でありながらもインクルーシブ教育を推進しなければなりません。授業を展開する中で、発達障害の特徴を認識しているか、交通安全の知識があるかによって、授業展開に大きく影響します。このことから発達障害の子どもに対するマニュアル的な指導書を作成することで教育現場に還元できると考え取り組みました。

 震災被害をきっかけに発達障害について研究に取り組み、現在は、そのような子どもたちの交通安全にどのような課題があるについて調査を始めているところです。
これが背景ですね。研究に至ったという。

―タカタ財団の助成研究報告会での発表だけでなく、社会へ広めて行くことを考えては。。。

 今回の研究において、学校における安全教育の要望について、障害者関連のNPO法人や障害者支援施設の方、障害をもつ子どもの保護者から聞き取り調査を実施ところ、学校教育の中で障害児に対する交通安全の取り組みを積極的に取り組んでもらいたいと要望がありました。そこで、具体的にどのような課題があるかについて聞き取りを行いました。

 一方、学校教育の交通安全の取り組みについて調査したところ、発達障害児、健常児とも同時間帯にスタントマンによる事故の再現やトラックの運転者の視覚についてなどイベント的な単発な取り組みがなされていることが多く、様々な危険な場面においての対応策など継続的指導は、なかなか進んでいないことが分かってきました。特に発達障害者に関しての交通安全は、十分な取り組みがなされていないことも分かりました。

 本研究では「合理的配慮」という言葉を用いながら進めています。この「合理的配慮」とは、障害のある人が日常生活を送る上で妨げとなる社会的障壁を取り除くために、状況に応じて行われる配慮であり、障害者の人が一般の人と同等に通常と変わらない生活を送れるようにするための配慮を意味し法律でも定められています。交通安全でしたら点字ブロック、横断歩道での音、公共施設等のバリアフリー化など提供されていますが、多くは身体障害の方に対しての「合理的配慮」であり、発達障害のある人に対しての「合理的配慮」が十分なされていないのが現状です。今回の研究を通して、メディアの方にも、その点について目を向けていただき、社会において身体障害者以外の障害のある方に対する「合理的配慮」の必要性について広く発信して頂き、多くの方に対して社会問題として投げかけて行く必要があると考えています。

 発達障害児の保護者や施設の方は、「合理的配慮」を訴えたいと思われていますが、なかなか訴える機会も少なく、社会が「ああ、そうなんだ」と気付き、社会全体でそのような人たちを守ろうという意識改革が少しでも起こればと願っています。

 発達障害については、十分に認知されていない現状で、社会においても受け入れる体制が整っているとは言えません。残念ながら,理解を深めていこうと言う動きも十分ではないと感じています。そこで、周辺環境とその支援体制を拡大して行くことによって、子どもたちの行動範囲が少しずつでも広まっていき、コミュニティーが少しずつ健常者と一緒に広まっていくことで、共生社会の実現が出来ればと思います。

―それはかなり困難なことかもしれませんが、一歩ずつやるしかないと思います。

 先にも述べたように、発達障害のある子どもがすごく多くなっているのが現状です。社会もそのような子どもに対して関心を向け理解を深めないと、今後、共存社会の実現は難しく、社会全体に歪みが生じる可能性があると思います。

―発達障害児に対するインフラというものは特にないですよね。

 そうなんです。身体障害者に対するインフラというものはかなり整備されていますが、身体障碍者以外の障害の方に対するインフラは、まだまだ少ないです。インフラと直接は関係ありませんが、スポーツの場面においても同様な感じです。身体障害者が参加するパラリンピックは,大きくメディアに取り上げられいますが,発達障害とか知的障害者のためのスポーツの国際大会も行われていますが、メディアに取り上げてもらう機会が少ないのが現状です。

 社会が大きく変化したことによって、身体障害者の方も健常者と一緒にやろうと変わってきました。次に身体障害者以外の障害者へも徐々に目が向けられるようになれば、日常生活、スポーツ場面をはじめ、様々な取り組みに変化が生じると期待しています。

―本研究の目的が、『発達障害のある子どもたちに求められる合理的配慮と特性を念頭に置いた指導方法を明らかにし、教育プログラムおよび教材開発を行う』とあります。
本研究について実施した成果等の解説をお願いいたします。

 障害者支援施設や学校、保護者を対象に、発達障害のある子どもが交通安全に対してどのような課題を持っているのか聞き取り調査を行いました。

 調査の中で驚いたことは、クルマと接触した時に保護者等に報告しないことでした。被害者なのにクルマに当たったことを報告したら怒られると思い込んでいる現状が分かりました。また、車と接触した時に相手に対して、自分の意思を上手く伝えきれないことや、家に帰り車と接触したことが分かっても、はっきりものを言わないことで、どういう状況で接触したのか分からなかったケースの報告も受けました。さらに車に当てられ被害者なのに、逆に自分が悪いと錯覚し、その場から逃げてしまうことがあったこともインタューから分かり、課題が浮き彫りになりました。

 そして、発達障害のある子どもの中には、痛みの感じ方が低い子や、痛みを我慢していている子がいます。保護者が異変に気付き病院へ連れて行ったら骨折していたことがあったとインタビューで報告を受けました。インタビューは、15名の方々に行いましたが、今回の事例は、ほんの一部だと思います。他にもいろいろな事例があるのではないかと考えています。

 その一方で、子どもの安全を考え、障害があることで、「家の外へ出てはだめ」とか、「自転車に乗ってはだめ」などと保護者が考えるようになり、子どもの行動範囲が狭くしてしまうことがあります。一長一短あるのですが、子どもたちがより一層健常者と同じレベルで、しかも安全に暮らしていけるようにするためには、どのように対応したらよいのか,本当に難しい問題だと感じています。

 対応策の一つとして、ロールプレイ(現実に起こる場面を想定し、疑似体験を通じて、ある事柄が実際に起こったときに適切に対応できるようにする学習方法の一つ)を用いて子どもたちにアプローチしました。お昼の時間帯の道路と夜の時間帯とでは、道路状況は変わります。また、見通しの良いところと見通しの悪いところがあると思います。そのことに関して、ゆっくりと子どもたちにロールプレイを用いてレクチャーし、その後、現場に連れて行って、本当に納得した状態になるまで,ゆっくりと時間をかけて対応して行きます。

 ルール作りは大切なのですが、そのルールを押し付けてしまうと子どもたちは極端な理解を示すことがあります。例えば、震災の時に「地震が来たら机の下に入りなさい」とよく言いますが、グランドに待機している時でも地震が来ると「机の下に入りなさい」と頭の中にインプットされていることから、机を探す行動をとるのです。この様に臨機変容ということがなかなかできない特徴があります。

 一方で、自己完結してしまうこともあります。例えば大人が信号無視とか、道路を横断しているのを見て、「大人がやっているからいいんだ」と解釈し、危険な道路を横断してしまう場合もあります。そこで、子どもたち自身が、何が良くて何が悪いのかというのを少しずつ納得した上で繰り返し伝えることで、「ここは渡ってはだめだ」ということに繋がっていくと考えています。

 発達障害の特徴を十分理解したルール作りが大切で、子どもたちが納得するまでゆっくりと時間をかけながら繰り返し行うことが重要だということが、今行っているワークショップで保護者とのコミュニケーションから少しずつ分かってきたと感じています。

―なかなか骨の折れる聞き取り調査でしょうね。

 保護者の方からは、実際の経験を述べていただくんですが、子どもたちのインタビューは、やはり難しく、多くの回答はないのですが、これらを基にケースごとに分類して共通項を見つける作業を行っています。この子どもに対しては、どのようにアプローチすればよいのかなど、分かりやすく分類された一覧表の完成を目指して取り組んでいます。

 本当に障害者理解が何処まで浸透して行くかが課題ですね。タカタ財団での中間発表などの機会に少しでも多くのメディアの方に聞いてもらい、社会に浸透させていければと考えています。一方で行政にも働きかけが必要だと思っています。

2017年度タカタ財団助成研究

「発達障害のある子どもたちへの合理的配慮を伴う教育プログラムの開発」概要

【研究代表者】
國學院大學 人間開発学部健康体育学科 教授
村上佳司

 発達障害のある子どもたち、とりわけADHD(注意欠陥多動性障害)の傾向のある子は、衝動性や注意欠陥の特性から事故に遭いやすいことが指摘されている。
 例えば、興味を示すものが視界に入った時、周囲の状況を確認せず急に飛び出す等の傾向であり、このような特性を有する子には特別な指導が求められる。

 しかしながら、子どもたちへの交通安全教育の実践で、これらの障害特性を考慮に入れた指導がなされているとは言い難いのが現状である。
 2016年4月に障害者差別解消法が施行され、公立学校において障害のある児童生徒に対して合理的配慮の提供が法的義務として義務づけられるようになったが、交通安全教育の領域では発達障害のある子どもたちへの合理的配慮を伴った指導は十分なされていない。

 発達障害の特性を念頭に置いた交通安全教育の研究および推進は喫緊の課題といえる。
 本研究は、このような問題意識から、発達障害のある子どもたちに求められる合理的配慮と特性を念頭に置いた指導方法を明らかにし、教育プログラムおよび教材開発を行うことを目的としている。

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