研究助成プログラム

助成研究者インタビュー

超高齢化社会到来を前に、認知機能が低下した高齢者でも安全に運転ができるようにするための方策を探しています。

タカタ財団・2015年度研究助成の対象テーマ
「軽度認知機能障害を内包する第2分類高齢ドライバの不適切な判断能力の特徴と予防安全策」
この研究の概要について、小竹元基氏に語っていただきました。

小竹

第2分類の高齢運転者は交通事故を起こすリスクが高い

第2分類

―今回は、第2分類高齢ドライバを対象とした研究となっています。先生は、どのような経緯で高齢運転者の問題に関心を寄せられるようになったのでしょうか?

 私は学生時代から自動車工学そして制御工学を研究してきました。そんななか、例えばクルマの制御に関する設計を行うのであれば、それが誰のためのものかを明確にしておかないと効果的なものができないという確信を持つに至りました。それで十数年前から、高齢運転者に焦点を当てた研究を行うようになったのです。近年、交通事故件数は徐々に減少してきているわけですが、高齢者の事故件数は増加傾向にあります。しかも、四輪車同士の事故における第1当事者率を見ると高齢運転者の率がかなり高い。高齢化が進行している日本の現状を考えれば、対象とするには最も適切だろうと考えた次第です。

原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別交通事故件数の推移(各年12月末)
四輪車と衝突した四輪運転者の年齢層別第1当事者率

―これまで、認知症の恐れがある高齢者=第1分類に関する研究は多くありましたが、認知機能が低下している恐れがある高齢者=第2分類にスポットを当てた研究はあまりないという印象です。なぜ対象を第2分類に絞られたのでしょうか?

ここ数年の講習予備検査と臨時適正検査の結果を見ると、第2分類のボリュームが平均で約27%となっており、第1分類の2~3%を大きく上回っています。そして、その第2分類の人の多くは実際に公道を走っているという厳然たる事実があります。つまり第2分類の高齢運転者は交通事故を起こすリスクが最も高いと言えるわけで、私達(研究協力者:今井玲男氏、鎌田実氏)は、そうした人たちがどういう不安全性の高い運転行動をするかを明らかにし、その特性に基づいた予防安全サポートの設計をするということは非常に意義が大きいと考えたのです。

リアルな基礎データを取得するために実車を使った公道での実験を敢行

―今回の研究では、第2分類の高齢運転者を対象として、
①「常時記録ドライブレコーダーを用いた不安全の高い運転行動の抽出」をし、そのデータに基づいて
②「不安全性の高い運転行動を評価可能な基準指標の設定(特性の設定)」を行い、
最終的には③「特性に応じた予防安全策の提案」をされるとのことですが、研究の進捗状況をお教えください。

 現在、研究は2年目に入っているのですが、未だ①のデータ収集を中心に行っており、②と③に行き着くにはもう少し時間がかかりそうな状況です。

 それで、①はどういうことを行っているかというと、武蔵境自動車教習所で高齢者講習に参加されている方に協力いただき、パソコンを用いた基礎認知能力の測定と、ドライブレコーダー及び車載CANを用いた生活道路(武蔵境自動車教習所の近郊)における運転行動の把握ということを主に行っています。ちなみに実施ペースは1ヵ月に1回程度。1日に最大6人ほどのデータしか取れないため、まだまだデータ取得を進めていく必要があるというわけです。

認知機能検査を受ける高齢者
運転行動評価のためのドライブレコータを搭載した教習車

―生活道路すなわち公道において第2分類の高齢運転者の運転行動のデータを取得されるというのは、かなり画期的といえるのではないでしょうか? これまであまり聞いたことがありません。

 そうですね、事故のリスクがあるため、公道での実験はほとんど行われていないのが現状です。この研究では基礎データがリアルなものでないと意味がないので、あえて取り組んでいる次第です。ただ、今回使用している実車は助手席側にもブレーキが付いている教習所仕様。もし危険な状況に陥れば横に同乗する教官がブレーキを踏むようにしているので、安全性はしっかり確保できています。

―まだデータ取得の途中ではありますが、現段階でわかってきている第2分類の高齢運転者の不安全の高い運転行動の例をお教えください。

 まず、特徴的なものとしては、安全確認が遅れがちになるという行動が挙げられます。例えば、普通は交差点では左右の安全確認を行ってから侵入するところ、第2分類の高齢運転者のなかには交差点に進入してから安全確認しようとする人たちがいたりするのです(もちろん事前に教官がブレーキを踏みます)。また、交差点の片側しか安全確認しようとしない人たちも存在します。比較的に開けた側の道の確認はしても、死角がある見えにくい道側の安全確認を怠りがちとなってしまうのです……。
 どうしてこうなるかは、これから明らかにしていくのですが、おそらく認知機能に障害があると、同時に二つ以上のタスクをこなすのが難しくなってしまうのではないかと推測されます。   

―今後、①のデータがある程度のボリュームとなれば、研究は②そして③へと移行していくと思うのですが、それらはどのような形で進められる予定でしょうか?

 ②に関しては、医学的要素も加味しながら個々人の特性をある程度グループ化し、認知機能障害の程度ごとの運転行動の分類を行っていくつもりです。そして③は、その分類に応じて、安全に運転を継続してもらうためには、どのような運転支援技術が有効かを提案していく格好になると思います。例えば先ほど紹介した交差点で片側しか安全確認を行わない傾向のある人には、レーザービームによるセンシングと、それにともなった警告あるいは制御などの技術が有効であろうといった風な具体的な提案を行っていく予定です。

将来的には自動車メーカーとの連携、そしてドクターがいる運転ドックの設置を

―そうすると、将来的にこの研究が社会に還元されるとしたら、自動車メーカーなどとの連携が不可欠となりそうです。

 ええ、そうした連携はいずれ必ず必要になってくるでしょう。ただ私は、それに加えて、ドライビングドクターがいる運転ドックをクルマ関係の施設(教習所、自動車ディーラー等)に設置すべきだという考えももっています。そのイメージは、現在やっている①の実験に極めて近く、個々人の運転行動の特性を見極め、それぞれに応じた適切な安全アドバイスをし、かつ最も相応しい運転支援技術を処方するといった働きをするようなものになると思っています。

―なるほど……。いずれにせよ先生は、この研究を通して、第2分類の高齢運転者に運転継続をしてもらうための方策を探していらっしゃるということなのですね。

 はい、そのとおりです。2025年に団塊世代が後期高齢者となるなど、今後ますます日本の社会の高齢化は進行していきます。これは、高齢者に継続的に活躍してもらわないと社会は立ちゆかなってしまうことを意味しており、そうであるならば、多少の認知機能の低下があったとしても安全にクルマを運転できる状態が実現できるなら、運転を継続してもらうのがベターだということができます。つまり、私は、ある意味、高齢者の能力を活かし、超高齢化社会に資する研究を行っているといっても過言ではなないと思っているのです。

2015年度タカタ財団助成研究

「軽度認知機能障害を内包する第2分類高齢ドライバの不適切な判断能力の特徴と予防安全策」概要

【研究代表者】
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 准教授
小竹元基

本邦では、70歳以上の運転者による重大な交通事故は増加の一途をたどり、事故抑止には運転を控えさせればよいが、公共交通の貧弱な地方地域では、運転断念が自立した生活の断念につながり、社会的な問題である。警察庁におけるデータでは、高齢者の事故は、飲酒や速度違反等の交通ルール不遵守の原因は少なく、運転操作不適、漫然運転、安全不確認等が成因であり、不適切な判断能力が高齢者の自動車事故の大きな要因となっている。実環境における高齢者の運転には個人差があることが言われているが、その個人差の背後に、不適切な判断能力の個人差が存在する。このよう運転者の運転安全対策の一環として、平成21年6月から75歳以上の高齢者免許更新時に認知機能検査の実施が開始され、講習予備検査で認知機能が低下している(第1分類)と判定され、かつ一定の交通規則違反があった者は、認知機能の低下の程度(認知症のおそれ)を臨時適正検査の診断を踏まえて、運転免許証の取り消しが行われるようになった。しかし、記憶・判断力等の認知機能がやや低下している(第2分類)と判定された人は、規定上、運転継続には何ら制限がない。そのため、「運転に関わる認知機能が低下した」健常高齢者および軽度認知機能障害を内包する第2分類のドライバへの運転安全性へ対策が必要であり、本研究では、このようなドライバの日常運転における不適切な判断能力が及ぼす不安全行動の特徴を抽出し、その特徴を考慮した予防安全方策の提案を行うことを目的とする。

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