研究助成プログラム

助成研究者インタビュー

世界の交通事故死者数は、安価かつ頻繁な危険予測訓練により減らせる可能性があります。

タカタ財団・2014年度研究助成の対象テーマ
「タブレット端末を利用したハザードマップ連携型危険予測訓練ツールの開発とその評価」
この研究の概要について、島崎 敢氏に語っていただきました。

島崎

究極の目的は世界中の交通事故死者数を減らすこと

―先生は静岡県立大学在学中に国際関係学を学ばれています。どのような経緯で、交通問題の研究に取り組まれるようになったのでしょうか?

 国際関係学というのは国同士の際相互理解の促進について考える学問です。言い換えれば平和の為の学問とも言えますが、当時、私がその専攻を選んだのは、第二次世界大戦で悲惨な体験をした両親の話を聞いて、世界平和の必要性を強く感じていたからです。
今になって振り返れば、我ながらなかなかに純粋かつ無垢な志望動機だったということができます(笑)。
 では、そんな私がどうして交通問題へと関心を動かしていったのか……。もともとクルマが好きだったこともあるのですが、いろいろ学んでいくうちに一年間の世界の交通事故死者数が100万人以上に上り、戦争で亡くなる人の数よりも断然多いという事実に気付いたのがきっかけとなりました。つまり、世界の人々の幸福や平和に役立つという点においては、交通事故を減少させるための研究は、紛争を減らすための研究に劣らず重要であり、取り組み甲斐のあるテーマだと思えるようになったのです。
 ただ、だからといって、そのまますんなりと交通問題に関する研究の道に進んだわけではありません。私は自分で学資を稼ぐ必要があって、大学卒業後に三年間ほどトラックやタクシー、タンクローリーのドライバーを職業としました。ある意味、実地で交通問題を体感する時期を持ったということになるでしょうか……。それで、ある程度お金が貯まったので、早稲田大学人間科学学術院で交通心理学を専門に研究している先生のところの門を叩いたという次第です。

―早稲田大学人間科学学術院では、どのような研究をされていましたか。 そして、それは今回の研究とは繋がりがあるのでしょうか。

 某タクシー会社に長期間にわたって実験対象となってもらい、そこのドライバーさんの事故を減らすための研究をしていました。その中で、事故を起こしやすいドライバーさんは危険な対象への認知のタイミングが遅れやすいことが分かってきたわけですが、一方でそれは繰り返しの練習によって克服される可能性が大きいことも見出されました。
 そこで、私はタブレット上でドライブレコーダーに残っている衝突映像を使って危険予測訓練ができるHazardTouchというソフトを作成し、それを使ってドライバーさんたちに繰り返しの訓練を受けてもらい、その効果を調べることにしました。得られた結果は期待通りのものでした。衝突対象への反応時間が短くなるなどの効果が明らかになったのはもちろんのこと、最終的には実際の道路で速度が落ちたり確認回数が増えたりと,運転行動が改善されることも確認できました.

 今回の研究「タブレット端末を利用したハザードマップ連携型危険予測訓練ツールの開発とその評価(協同研究者:早稲田大学人間科学学術院 石田敏郎教授/中村愛助手)」は、その時の研究成果を受けた形で進められたものです。前回と異なる点は、ドライバーが普段、通勤通学などで走っている道路上で撮られた映像を刺激とした点です。これは、訓練対象をタクシーなどの職業ドライバーだけでなく、全国に何千万人といる一般のドライバーにまで広げることを意識したもので、任意の地点での刺激映像が使えるように、希にしか撮れない衝突映像ではなく、通常の走行映像に歩行者や自転車、クルマのピクトグラム(シルエットだけの簡易的な図)をCG合成し、飛び出しの様子を再現しました。

―危険予測訓練というと、ドライビングシミュレータなどが有効に思えますが、なぜタブレット端末の使用にこだわったのでしょうか?

 なるべく多くの人々に、なるべく頻繁に訓練してもらいたいという思いがあったからです。確かにドライビングシミュレータで良い訓練ができますが、ドライビングシミュレータを導入するにはかなりの金額が必要になるし,場所も場所もとります。どこかで借りるとしても、そう度々利用できるわけではありません。 そうであるなら、多少精度は劣ったとしても、いつでも手軽に安価に訓練ができるタブレットとソフトの組み合わせがベターであろうと考えたわけです。より多くの人に訓練してもらうために、また,インターネットを通じで簡単に訓練刺激映像が配信できるという点では、タブレットを通しての訓練というのは、非常に大きな可能性を秘めていると思います。

―つまり、今回は日本国内の一般ドライバーを対象に研究を行われたわけですが、いずれは世界の交通事故件数および交通事故死者数低減も視野に入れられているが故のタブレット端末の使用ということになるわけですね。

 はい、大きく言うと、そういうことになります。

タブレットとHazardTouchによる危険予測訓練の有効性を確認

―では、研究の概要と成果についてお教えください。

研究の概要は以下の通りとなります。

1.実験参加者(早稲田大学所沢キャンパスに通う男性11名)の自家用車にドライブレコーダーを取り付け、普段どおりの通勤・通学の運転を記録

2.実験参加者が実際に通勤・通学している道路で刺激映像を撮影し,そこにCG(歩行者、自転車、クルマのピクトグラム)を合資し、訓練用映像を作成

3.その映像を入れたHazardTouchをタブレットにインストールし、それを用いて実験参加者に危険予測力向上のための訓練(指タッチでハザードを指摘する訓練)を行ってもらう

4.訓練終了後、実験参加者に訓練ツールの使用感等のアンケートを実施

5.訓練終了後、実験参加者の通勤・通学の運転を再びドライブレコーダーで記録し、その映像
から訓練前後の運転の変化を見ることで効果を検証

刺激映像

この中の④のアンケートでは、タブレットという手軽なツール、あるいは簡易なCGを合成した映像でも危険予測力向上の訓練として有効であるという返答が多く見られました。
また、⑤の訓練前後の変化の検証についてですが、訓練後は、交差道路に対する注視回数と注視時間が明らかに増加していることが分かりました。実験参加者数が少なかったこともあって、スピードを緩めるという点においては確かな効果は見られませんでしたが、この注視回数と注視時間の増加という点で、今回の研究で提案した危険予測訓練ツールが有効に働き得るということがある程度は確認できたように思います。
 
―ちなみに、この研究は実験参加者の自家用車を使って、通常の道路上で行われています。
これはなかなか珍しいことといえるのではないでしょうか。

 はい、その通りです。普通、クルマを使った実験というのは、実験用の車両と実験用コースを使って行われがちです。危険を避けた形で実験を行うというのは大切なことなので、それはそれで悪くはないスタイルだと思います。ですが、実験環境下に置かれた実験参加者は「よそ行き」の運転をしてしまうので、果たしてそれで取得したデータが現実に則しているものかどうかについては、何とも言い難い部分があるのも確かです。そういう意味で、今回、実験参加者の自家用車を使い、通常の道路上でほぼいつも通りの自然なデータを取得できたというのは、それなりに大きな意義があったものと自負しています。

事故死者数減少と国際貢献を願う国や企業の研究協力を期待する
 
―最後の質問です。今後、この研究をどのように進展させていくご予定ですか?

 先程も触れましたが、今回はスピードを緩める効果が見られませんでした。これについては、サンプル数を増やす等して、さらに効果の程を測っていきたいと考えています。
 将来的な展望としては、この訓練ツールを更に改良・進化させていくことが挙げられます。
その一つは、飽きないで繰り返して訓練が続けられるような工夫を盛り込むこと。
これについては、例えばゲーム開発者とともに研究を進めていくという方法もあろうかと考えています。
 もう一つは、特定の一部の人が訓練用の刺激映像を作成するのでは数に限りがあるので、HazardTouchに誰でも自分でドライビングレコーダーの走行映像が取り込めて、そこに簡単にCGの刺激映像が入れられるようにするということ。もし、これが出来れば
日本国内のみならず交通事情の異なる国々の人も、自分たちで訓練刺激を作って利用できるようになるので、現在、急速に発展しつつあるアジアの国々を筆頭に一三〇万人以上と言われる世界の交通事故死者の低減に大きく貢献できることになります。また、,刺激映像を作ること自体が、実は交通安全教育になる、という側面もありますので、ぜひ実現したいところです。
 ただ、ソフトの研究・開発にはそれなりに資金と労力が必要になるところがネックといえばネックです。できれば、交通事故死者減少と国際貢献を強く願う国や保険会社、自動車メーカーなどの協力を得ながら、事を進めていければ幸いと考えています。

2014年度タカタ財団助成研究

「タブレット端末を利用したハザードマップ連携型危険予測訓練ツールの開発とその評価」概要

【研究代表者】
国立研究開発法人 防災科学研究所 特別研究員(元 早稲田大学 人間科学学術院 助教)
島崎 敢

先行研究において,ドライブレコーダに記録された事故映像とタブレット端末を用いたハザード知覚訓練を行った結果,ハザードの発見が早くなる,交差点に対する注視時間が長くなる,走行速度が落ち,確認が増えるなどの効果が明らかとなっている.しかし,事故映像は偶然にしか撮影できないため,訓練者が普段利用している道路など,特定の地点での訓練を行うことができない.そこで本研究では事故ではない通常の走行映像に交通他者をCG合成し,擬似的なヒヤリ・ハット映像を作成した.11名の実験参加者の自家用車にドライブレコーダを装着し,普段通りの通勤・通学の様子を記録した.続いて,実験参加者の通勤・通学経路上の映像で作成した擬似的なヒヤリ・ハット映像を用いてハザード知覚訓練を行い,主観評価を求めた.さらに,訓練後の通勤・通学の様子も記録し,訓練前の運転行動との変化を調べた.主観評価では,実験参加者は刺激映像がどの地点の映像か概ね理解しており,興味が持てる,役立ちそう,やってよかったなど,訓練に対して概ね肯定的にとらえていた.運転行動の分析では,訓練地点での分析区間通過時間には変化が見られなかったが,訓練地点通過時の交差道路に対する注視時間や注視回数は有意に増加した.CG合成を用いた擬似的なヒヤリ・ハット映像でも,実験参加者が日常的に走行している地点の映像を用いて訓練を行えば,注視行動を増加させる効果があることがわかった.

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