交通安全コラム

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自動車誕生前史(20)―ガソリン自動車第一号の誕生―

前回は、ベンツの自動車用エンジンの開発の経過を紹介した。
今回は、ベンツの第一号ガソリン自動車の完成と、エンジンと車体の詳細を紹介する。

◆電気点火の採用
高速回転では点火タイミングが重要になる。それまでは、火炎点火法が信頼性の観点から優位を占めていたが、ベンツは苦労して電気点火システムを開発した。初めは、発電機をエンジンのはずみ車からのベルトで回転し、その電気を変圧器で高圧化して点火栓に導いていた。

◆電源に電池採用
しかし、この方式は、石畳を走る際のクルマの振動で発電機の集電ブラシが揺さぶられて接触不良となり、確実な点火が行われないという問題があった。そこで、発電機の使用を断念し、電源として電池を採用することにした(図1)。

ベンツエンジンの点火のための電気回路

◆水平のはずみ車
高速回転エンジンをクルマに使うために、ベンツは、エンジンの大きなはずみ車が水平になるように設計した(図2 A)。これは、垂直に配置すると高速回転する大きなはずみ車の慣性で、かじ取りが困難になることを心配したからである。

ベンツ車の動力伝達機構

◆ジャイロモーメント
これは、慣性の大きな回転体が作る「ジャイロモーメント」がクルマの向きを変えることを妨げるからである。この現象は地球ゴマの遊びで実感できる。単発の大馬力戦闘機では、プロペラのジャイロモーメントが旋回性能に影響するといわれている。

◆ガソリン自動車の誕生
ベンツはこのエンジンを三輪車の後部に搭載し、1885年にガソリン自動車第一号を誕生させた(図3)。春には工場の敷地で試運転が行われたといわれている。はずみ車を水平に置いたため、回転を車輪に伝える構造は複雑であるが、よく考えられた設計である。

ベンツの世界初のガソリン自動車

◆動力伝達とブレーキ
エンジンの回転を、垂直のクランク軸から傘歯車で水平にして取り出し、ベルトで床下の中継軸のプーリー(ベルト車)に伝える(図2 B)。プーリーの内部には差動装置が組み込まれていて、動力は左右に分かれて、チエンでそれぞれの車輪を回転させる仕組みである。クラッチの作用には、空転できるプーリーを中継軸に設け、ベルトを横にずらすことでエンジンがアイドリングできるようにした。ブレーキには、自転車で使われているようなバンドブレーキを中継軸に取り付け、運転席のレバーでバンドを締めることで制動した。

今回は、ベンツが完成した第一号ガソリン自動車のエンジンと車体の詳細を紹介した。
次回は、このクルマの世間の評価と、その完成へのベンツ夫人の貢献を紹介しよう。

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