交通安全コラム

交通安全コラム

地上最高速の争い(33)―T型フォードの誕生(2)―

前回は、新記録樹立と、アメリカを自動車社会に導いたT型フォードの誕生を紹介した。
今回は、寄り道になるが、T型車の企画と生産技術を紹介する。

◆大きくてコンパクトで低価格
ヘンリー・フォードは、T型フォードについて述べている。「私は大衆のためのクルマを創る。それは、家族で使うには十分な大きさでありながらコンパクトで、一人で使うにも取り回しが良く、整備に手間のかからないクルマだ。最新の技術でシンプルに設計し、それを最高の材料で、腕利きの職工が製作する。しかも、良い給料のサラリーマンなら買える低価格にする。」

◆部品の互換性
クルマを低価格にするため、フォードは大量生産・大量販売の方針をとり、組立工程の合理化を考えた。それまで、組立ての際時間がかかっていた部品の手直しを無くすため、すべての部品の寸法に許容誤差を定めて、どの部品を組み合わせても、修正せずに組み立てられるようにした。この部品の「互換性」という発想は、米国では、すでに、ピストルやライフル銃や一部の農業機械で行われていた。しかし、これを自動車に応用したのは、フォードが世界で最初である。

◆コンベヤーライン
それまでは、多数の職工が1台のクルマに次々に取りついて、部品の組み付けを行っていた。フォードは、これを逆にして、一人ひとりの職工の前に、順番にクルマを移動させ、職工は動きまわらずに担当の部品だけを組み付ける方法を採用した。いわゆるコンベヤーラインの導入である(図1、2)。これは、食肉加工場で、コンベヤーに吊るされた肉塊から次々に肉が切り取られるのを見た部下からの提案を実行に移したものと言われている。その結果、12時間半かかったクルマの製造時間が93分に短縮されたと報告されている。

フォード工場の初期の組立コンベヤーライン
フォード工場の組立コンベヤーラインの進化

◆色は黒のみ
フォードが「それが黒である限り、顧客はどんな色のT型フォードでも選ぶことができる」と言ったという伝説がある。価格を下げるために、塗装色を黒だけに絞って生産を合理化したと考えられているのはもっともである。黒はほかの色より乾燥が速いので、早く組立に着手できるとの推測は理にかなっているが、フォード社の技術文献によれば、黒は廉価で耐久性があるから選ばれ、生産初期と末期には黒以外のクルマも生産されていた。

今回は、速度記録挑戦で生み出され、自動車の発展の大きな推進力となったT型フォードの開発思想と生産技術を紹介した。
次回は、T型フォードの盛衰を振り返り、速度記録の歴史に戻る。

<前の画面へ戻る

Page Top