交通安全コラム

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地上最高速の争い(31)―自動車史上の巨人の登場(6)―

前回は、速度記録挑戦の本番での厳しい天候に奮闘するフォードとメカニックを紹介した。
今回は、悪化した走行環境下の本番走行でのフォードの苦闘と、新記録樹立を紹介する。

◆前進あるのみ

クルマは計測区間入口の旗に向かって加速を続けた。しかし、走路は前回のようには平坦ではなく、氷の突起を越える度にクルマは空中に飛び上がった。自動車の走り幅跳び競技があれば、毎回記録を更新するほどだった。フォードは、着地後の蛇行を抑えて進路を保つため、ハンドルと格闘せねばならず、ハフは、クルマから振り落とされずにスロットルを全開に保つのに必死だった。しかし、社運と名誉が懸かっているので、フォードには中止という選択肢はなく、前進あるのみだった。

◆命運尽きるか

先回りをしようとしていた氷上ヨットは、全力で加速する999号(図)にすぐに置いていかれた。次第に跳躍と着地はリズムに乗ってスムーズになったが、計測区間で特大の突起に遭遇した。滞空時間がそれまでになく長かったので、これでいよいよ命運尽きたか、とフォードは観念した。着地すると雪煙と蒸気で前方が全く見えなくなった。これは土手状に積もった雪のためで、幸いにも、それに助けられ、何とか体勢を立て直し、最高速を維持したまま計測区間を通過した。

フォード博物館に展示されている999号

◆最後の試練

それでも、フォードにとってはリラックスする余裕はなかった。進路前方に氷に閉じ込められたスクーナーが放置されているのが目に入った。しかし、ブレーキは後輪だけの貧弱な構造で、路面は氷である。視界の中で帆船はどんどん大きくなっていく。フォードはブレーキに頼ることを諦め、最後の気力を振り絞ってハンドルを操作し、クルマに大きな円弧を描かせて、かろうじて衝突を避けることに成功した。

◆新記録樹立

非常に困難な走行だったので、土曜日より遅いことはフォードにはわかっていた。実際の速度はわからなかったので、悪夢のような試練を乗り越えても、得るものはなかったのかと落胆した。
しかし、公式タイムは1マイル39.4秒の時速91.37マイルで、その時点の公式世界記録より速い、と計時員から伝えられたので、彼の失望は歓喜に変わった。フォードは、同乗したハフにボーナスとして50ドル与えた。

今回は、悪化した走行環境下で決行された本番走行でのフォードの苦闘と新記録樹立を紹介した。
次回は、この成功が、フォードに庶民の足となるT型フォードの生産を可能にさせ、自動車の発展の大きな推進力となったことを解説する。

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