交通安全コラム

交通安全コラム

地上最高速の争い(30)―自動車史上の巨人の登場(5)―

前回は、新会社での高価格車販売不振挽回のための、速度記録挑戦の小手調べを解説した。
今回は、速度記録挑戦の本番での厳しい天候に奮闘するフォードとメカニックを紹介する。

◆晴れ舞台

3日後の1904年1月12日火曜日、フォードは、ふたたび、凍結したクレア湖の氷上に999号(図)を持ち出した。
今回は、速度記録を公認してもらうために、アメリカ自動車協会の計時員を同伴していた。
この晴れ舞台には、多数のジャーナリストを招待しており、観衆も数百人集まっていた。

ヘンリーフォード

◆悪化した状況

ところが、土曜日に比べて、この日は状況が一変していた。
気温は低下し、クルマの露出している部品の表面の水分が凍結するほどの寒さになっていた。
氷が滑りやすくなっていることもはっきりわかり、車輪の空転が懸念された。
さらに、氷盤に亀裂ができ、ところどころに大な突起が目立っていた。

◆ボランティアのサポート

フォードは、スタートを待つ間、両手を振りまわし胸を叩いて暖を取った。
観衆の有志が吸気管をバーナーで暖めると、フォードは計器を確認し、燃料コックを全開にし、点火時期を調整した。
ボランティアがクランクを回すと同時に、フォードが左のペダルを踏んで混合気を濃くしてエンジンを始動した。

◆真っ赤な炎と轟音

フォードは、操舵軸の左右の垂直の把手をしっかり掴み、走路の氷の状態がひどくないことを祈りながら、
ペダルを踏んでクラッチをつなぐ、と同時に多量の混合気をエンジンに送り込んだ。
有志の後押しに助けられて空気入りタイヤが回転して前方の雪を踏む、と同時に排気音は耳を聾するばかりに高まり、
4つの排気管から真っ赤な炎がほとばしり、999号は車輪を空転させながら発進した。

◆蜘蛛男ハフ

フォードは、組み立てを一緒にやってクルマのすべてを知り尽くしている、軽量で器用なメカニック、エドワード・ハフを、
今回も同乗者として選んだ。彼は、走行中のエンジンに蜘蛛のように貼りついて、給油や調整をするので、
スパイダー(蜘蛛)・ハフというニックネームで呼ばれていた。
彼の役割は、エンジンの横のフレームに乗って、激しい上下動のためにフォードの足がスロットルペダルから浮き上がっても、
一瞬たりともスロットルが閉じることがないように、気化器のところでスロットルを押さえて、常に全開を保つことであった。

今回は、厳しい天候に奮闘するフォードとメカニックの記録挑戦本番での経過を紹介した。
次回は、新記録を樹立するまでの二人の苦闘を紹介する。

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